【トリエステ・ヴェルディ歌劇場来日公演】アルベルト・ガザーレ、ジュリオ・ペッリグラ インタビュー掲載

オペラ評論家の香原斗志さんより、アルベルト・ガザーレ、ジュリオ・ペッリグラのインタビューが寄稿されました。彼らは今回のトリエステ・ヴェルディ歌劇場「椿姫」日本ツアーに出演いたします!


アルベルト・ガザーレ(バリトン)
 
                    インタビュー・文:香原斗志(オペラ評論家)
 
ヴェルディを理想的に歌うバリトンが少なくなったといわれるなか、一人気を吐くのがアルベルト・ガザーレである。昨年来、日本でルーナ伯爵、リゴレットと、名唱で聴衆を唸らせたのに続き、いよいよジェルモンを披露する。
 
――6月のボローニャ歌劇場公演の《リゴレット》では、現地ボローニャで歌われたときよりも、強く激しく歌っていらっしゃいました。
ガザーレ(以下G) 日本の劇場は大きいので、ボローニャとは少し違った表現をする必要があります。空間が小さいボローニャでは朗誦的というか、もっと言葉に乗せた表現ができますが、日本ではいっそう歌唱として聴かせる必要があります。
 
――柔軟に対応できるのは、歌唱技術がたしかだからでしょう。ボローニャ歌劇場公演では《リゴレット》のほか、大阪で《セビリャの理髪師》のフィガロ役も歌い、こちらも成功させました。求められる表現法がまるで違う2作を同時に歌えるのもまた、テクニックがたしかな証拠だと思います。
G フィガロを歌ったのは25年ぶりで、オファーをいただいて嬉しかったです。好きな作品なので、また歌ってみたいと思っていたのですが、どの劇場もオファーしてくれませんでしたからね。いつもヴェルディにヴェルディにヴェルディに、時々ヴェリズモでまたヴェルディ、という感じです。ただ、《セビーリャの理髪師》にはアジリタをはじめベルカントのテクニックが要求され、《リゴレット》とは求められるものが全然違うので、日本に来る前の15日間、《リゴレット》は封印して《セビーリャの理髪師》だけを勉強したんです。その間、毎日最低1回は全曲を通して勉強し、アジリタなどのテクニックを取り戻しました。声が以前より重くなっているので、簡単ではなかったですけどね。
 
――トリエステのヴェルディ歌劇場公演では、いよいよジェルモンです。
 昨年のバーリ歌劇場の《イル・トロヴァトーレ》、6月のボローニャ歌劇場の《リゴレット》、そして《椿姫》と、私にとって特別な3作を続けて日本で歌えるのは光栄です。ジェルモンは《リゴレット》ほどではないけどよく歌っている役で、最近では昨年夏のマチェラータ音楽祭で歌い、素晴らしい結果を残せました。非常に思い入れがあって、師匠の(往年の名ヴェルディ・テノールの)カルロ・ベルゴンツィと、1音1音を勉強した役です。ベルゴンツィは、たった一つの音をどう作るかについて、すごくていねいに指導してくれました。その結果、ジェルモンは私をいつも大成功に導いてくれます。もちろん、日本でも大成功できると信じています。
 
――ガザーレさんのジェルモンには、どんな特徴がありますか?
 《椿姫》の核心は、ヴェルディ渾身の美しいフレージングです。ジェルモンという役を最も美しく理想的に歌ったのはレナート・ブルゾンだったと思います。本当に上等で、エレガントで、紳士的で、信じがたいほど素晴らしかった。ジェルモンには、ブルゾンのように非常に高貴なバリトンであることが求められます。歌が高貴でなければいけません。私もそう歌いたいし、そういう役だからこそ好きなんです。
 
――今後、歌ってみたいと思っている役はありますか?
G 近いうちに《ドン・ジョヴァンニ》にデビューしたい。私の声はいま、よい具合で熟成が進んでいるので、歌えると思います。暗めのバリトンに向いた役で、音域も中音に集中しているので、私には歌いやすいはずです。たとえば、《カルメン》のエスカミーリョも中音域に集中していて、最初は歌えなかったのですが、いまは自然に歌えます。《ドン・ジョヴァンニ》を歌うには声にボディが必要で、なおかつ柔軟に声を動かせる必要があります。私向きだと思っています。


ジュリオ・ペッリグラ(テノール)
 
                    インタビュー・文:香原斗志(オペラ評論家)
 
高音と美しいフレージングが売りの若手ベルカント・テノールとして、イタリアの主要劇場を中心に活躍がめざましいジュリオ・ペッリグラ。近年、歌いはじめたアルフレード役についても、品位ある歌唱だという評価が定着している。
 
――ペッリグラさんから見て、アルフレードはどんな役ですか?
ペッリグラ(以下P) 《椿姫》は素晴らしいオペラです。もう、絶対的に。アルフレードは田舎の裕福なブルジョワの息子で、若くて一本気な青年です。パリの女性、特にヴィオレッタの暮らしがどういうものか知らないまま、彼女に惚れ込んでしまいます。その結果、父親にヴィオレッタを遠ざけられ、彼から離れたヴィオレッタを、理由を理解しないまま罵倒し、しかし、ヴィオレッタが臥せってから駆けつけ、二人は一縷の希望を抱きますが、絶望的な結果に終わってしまう――。僕はこの一本気の青年に、自分の生まれ故郷の気性、つまりシチリア気質を持ち込みたいと思います。アルフレードを温かく、情熱的な青年として描きたいんです。彼は決して英雄的ではなく、やさしくて繊細です。ヴェルディという天才がスコアに記した指示に従う必要がありますが、するとむしろシチリア気質が活きてくると思っています。
 
――これまで何度も歌ってきたのでしょうか?
 昨年5月、ジェノヴァのカルロ・フェリーチェ劇場で歌ったのが初めてで、昨年はその後、夏にローマのカラカッラ浴場、12月にトリノ王立劇場で歌い、今年は1月にローマ歌劇場でソフィア・コッポラの演出、ヴァレンテォノ・ガラヴァーニの美しい衣装で歌いました。この印象的な舞台は日本でも上演されたんですよね。あとマルタでも歌いました。
 
――アルフレードという役は、いつも歌っていらっしゃるドニゼッティやベッリーニのオペラの役柄とどう違いますか?
 僕はベルカント歌いです。《アンナ・ボレーナ》や《マリア・ストゥアルダ》、《清教徒》や《夢遊病の女》などが得意で、今年から来年には《カプレーティとモンテッキ》や《ギヨーム・テル》にデビューします。また、ヴェルディの《シチリアの晩鐘》も初めて歌うように、ヴェルディにも力を入れています。そして、アルフレードにもベルカントを持ち込みます。実際、アルフレードはアリアや重唱など、ベルカントのスタイルで書かれている部分は多い。たとえば、「乾杯の歌」などはベルカントの歌唱法が求められ、一方、第2幕のアリアのカバレッタやフローラ邸の夜会の場面など、ヴェリズモのようにドラマティックに歌うべきところもありますが、ヴェルディは多くの部分で繊細さを求め、歌手にメッザヴォーチェを強います。ヴェルディは色彩やフレージングの表情など、ベルカントを要求しているのです。ヴェルディが意図したように歌うのは容易ではありませんが、スコアに書かれたヴェルディの意図を尊重することが大切です。まさにドニゼッティやベッリーニと同じように歌われるべきなのです。
 
――ベルカントで歌うために、具体的にはそのようにされるのでしょうか?
 ベルカントを美しく歌うためには、声を正確に用いる必要があり、テクニックが非常に重要です。たとえばマントヴァ公爵も、マンリーコも、声が輝かしいとか厚みがあるというだけで歌える役ではありません。マンリーコなんて英雄的に歌われがちですが、実際にはカンタービレが問われ、ラインが美しく歌われてこその役です。同様にアルフレードも、以前はもっと英雄的に歌われていました。でも、そういうドラマティックな歌唱では、ヴェルディが求める優美なフレージングは表現できません。結局、プッチーニにせよ、ヴェリズモにせよ、どんなオペラを歌うためにもベースになるのがベルカントです。
 
――日本で《椿姫》を心待ちにしている人たちへのメッセージをお願いします。
 日本に行けるのはとても幸せです。僕は日本のみなさんの心を打つように、アルフレードという役に魂を注ぎたいと思います。早くお聴かせしたいです。



アルベルト・ガザーレ(バリトン)


ジュリオ・ペッリグラ(テノール)